釜は「一国一城の主」と称されるほど、茶席で重んじられる道具です。産地と時代によって大きく三つの系統に分かれ、芦屋と天明が古作の 二大産地、そこに桃山以降の京釜が続きます。
釜は席の格を決める道具とされ、湯の音「松風(まつかぜ)」は茶室の主役でもあります。
ASHIYA — 筑前(福岡)
南北朝から室町にかけて栄えた名門。真形(しんなり)の端正な姿に、鯰肌(なまずはだ)と呼ばれる滑らかな肌、松竹梅などの繊細な地文を鋳出します。国の重要文化財に指定された釜の大半が芦屋釜です。
古芦屋は美術館級。市場に出るのは写しが中心です。
TENMYŌ — 下野(栃木)
芦屋と並ぶ古作の産地。ざらりとした荒々しい鋳肌と、飾らない素朴な姿が身上です。その侘びた風情は利休にも好まれ、芦屋の「静」に対する「動」と評されます。
肌の荒れは味わい。錆との区別を確かめて。
KYOGAMA — 京都
桃山時代、三条釜座(かまんざ)に釜師が集まって興った系統。利休の釜師・辻与次郎が侘びた「利休好み」を確立し、江戸期以降は大西家が代々受け継いで現代に至ります。
現行品も入手しやすく、実用ならまずここから。
YOJIRŌ — 利休好み
辻与次郎は利休の意を受けて阿弥陀堂釜・尻張釜などを生み、以後の釜の基本形を定めました。装飾を削ぎ落とした姿が特徴です。
「与次郎写」は稽古用として広く流通。
ŌNISHI — 千家十職
千家十職の釜師として続く家。歴代が家元の好みに応じて釜を作り、極めのある品は評価が安定しています。
箱書・極めの有無で価格が大きく動きます。
MODERN — 電熱対応
近年は電熱器に対応した軽量の釜や、稽古用の量産品も多く作られています。実用重視なら選択肢は広く、価格もこなれています。
自宅稽古なら電熱器+小ぶりの釜が扱いやすい。
| 真形釜(しんなり) | 肩が張り裾がすぼまる、芦屋以来の基本形。もっとも格が高い。 |
|---|---|
| 阿弥陀堂釜(あみだどう) | 口が広く胴が丸い。湯が汲みやすく、稽古に向く定番。 |
| 富士釜(ふじ) | 富士山のように裾が広がる姿。安定感がある。 |
| 雲龍釜(うんりゅう) | 細身で背が高い。小間や中置のしつらえに。 |
| 平釜(ひら) | 背が低く広い。湯が冷めやすく、風炉の季節向き。 |
| 筒釜(つつ) | 円筒形。炉の季節、狭い小間で使いやすい。 |
| 尻張釜(しりはり) | 下部が大きく張った形。与次郎の代表作。 |
| 責紐釜(せめひも) | 肩に紐を巻いたような突起をめぐらせた、格の高い形。 |
| 霰(あられ) | 粒を一面に鋳出した文様。整然と粒が揃うほど高い技術とされる。 |
|---|---|
| 鯰肌(なまずはだ) | しっとり滑らかな肌。芦屋釜の身上。 |
| 荒肌(あらはだ) | ざらりとした粗い肌。天明釜の味わい。 |
| 姥口(うばぐち) | 口縁が内へ落ち込んだ形。侘びた風情で好まれる。 |
| 鐶付(かんつき) | 鐶を掛ける耳。鬼面・遠山・獅子など意匠が多彩。 |
| 地文(じもん) | 胴に鋳出された絵や文様。芦屋の精緻な地文が名高い。 |
釜は炉と風炉で大きさを替えます。炉用は直径一尺前後の大ぶりなもの、風炉用はそれより小さめ。どちらにも使える兼用の釜もありますが、季節に合った寸法のほうが姿が決まります。
釜だけでなく、風炉・炉縁・敷板との寸法の釣り合いも大切です。詳しくは「炉と風炉のしつらえ」のページをどうぞ。
| 漏れの確認 | 水を張って一晩置き、滲みがないか。小さな漏れは「金気止め」で直ることもある。 |
|---|---|
| 錆の程度 | 表面の薄錆は育てられるが、内側の深い腐食は要注意。湯垢が育った釜はむしろ良品。 |
| 底の状態 | 古釜は底の入れ替え(共底・替底)が普通。釜師による直しなら価値を損なわない。 |
| 蓋と鐶 | 共蓋か替蓋か。鐶・釜敷が付属するかで実用性が変わる。 |
部位の名称と扱い方は茶釜の基本ページにまとめています。